
私たちの生活は、ほとんどの「モノ」を「マネー」と交換することで成り立つ社会になっていますよね。 「香り」もその一つ。いまやお店には数々の洗練されたルームフレグランスが並んでいます。
でも、ちょっと待って。それ……自分でも作れます。
ちなみにスプレーや液体タイプなども作れますが、今回は時間をかけて熟成を楽しむ「ポプリ」という形でのルームフレグランスを主体に提案したいと思います。(初期費用は少し、かかりますが)。
モノを自分たちの手で生み出す豊かさがあった時代
私は現在、50代です。 振り返ると、私の幼少期や青春時代は、母親が家にいて子育てをしている「ほぼ最後の時代」だったように思います。
そういった環境もあり、私の幼少期から大学生活くらいまでは、まだ「モノ」を自分たちの手で生み出す文化が色濃く残っていました。 食事やお菓子はもちろん、洋服、小物、編み物、バッグなどを手作りする文化が残っていました。近所にはそれぞれ物作りが上手な人がいて、母親たちは互いの家を通い合っては楽しそうに習っていました。
それが、お茶がペットボトルで売り出されるようになった頃からでしょうか…。 ありとあらゆるものが「マネー」との交換で手に入る社会へと、急速にシフトしていったように思います。
ルームフレグランスも、いつの間にか店頭に当たり前に並ぶようになりました。ある予測によると、日本のホームフレグランス市場は2025年には約498億円に達し、2034年までに808.3億円にまで成長するといわれているそうです。それだけ私たちは、香りを「買う」ことが当たり前になっています。
既製品にはない、自作ならではの「育てるプロセス」
市販のルームフレグランスは、安いもので2,000円台, 高いものになると6,000円〜9,000円ほどするものもありますよね。プロが調香した素晴らしいプロダクトには、香りの広がり方や絶妙な調合など、かなわない部分ももちろんあります。
でも、私は合成香料の匂いがどうしても苦手で、よそのお宅などで強いルームフレグランスがあると、少し気分が悪くなってしまうことがありました。そのため、自分自身で購入することはほとんどありません。
ただ、「自然な香り」自体は非常に好き。だからこそ、自分で精油をブレンドしたり、ポプリを作たりしています。

実際に作ってみると、飽きがこなくて、何度も嗅ぎたくなる素晴らしいフレグランスに仕上がります。もし香りが足りないと思ったら「追香(おいこう)」をすればいいし、イメージと違ったら他の精油を足して調整することも自由自在。 さらに、オーデコロンにしてもポプリにしても、熟成を待つ時間や、途中で「どんな香りになったかな?」と試しに香ってみる、そのプロセス自体が非常に愛おしく、楽しいのです。
気になるお値段と、プロも愛する「魔法の精油」
市販のルームフレグランスは安価なものなら1,000円台から購入できるため、それに比べたら確かに初期費用はかかります。
【基本の材料】
- お好みの精油
- オリスルート(ポプリの香りを長持ちさせる保留剤・約500円前後~)
- 無水エタノール、精製水(※ルームフレグランスやオーデコロンを作る場合に必要です)
- (※欲を言えば、ビーカー、計量カップ、はかりがあると便利です)
私がよく使う精油は、ラベンダー、オレンジスイート、ベルガモット、パチュリ、サンダルウッド、そしてネロリなど。
ただ、最初からこれらすべてを揃えるのは大変ですよね。そこで「まずはこれ!」という私の一押しが、「オレンジスイート」と「パチュリ」の組み合わせです。
「パチュリ」単体だと「大地」や「墨汁」を思わせるようなかなり渋い大人の香りなのですが、「他の香りとブレンドしたときに、信じられないほどの真価を発揮する」という唯一無二の性質を持っています。さらにワインのように、時間が経って熟成するほど良質な香りに育つという面白い特徴もあるのです。
このパチュリに、手頃でフレッシュなオレンジスイートを合わせ、それをオリスルートやポプリにする植物やスパイスと合わせ熟成させると、素晴らしい化学反応が起きます。 シャネルの『ココ マドモアゼル』や、ディオールの『ミス ディオール』など、世界中で愛される名作香水(シプレー系やオリエンタル系と呼ばれるジャンル)の多くも、実はこの「パチュリの深み」×「柑橘の華やかさ」の組み合わせがベースの重要な骨格を担っています。
もちろん、これらの名作香水にはローズやジャスミンといった華やかなフローラルをはじめ、何十種類もの複雑な成分がプロの技術で調合されているため、同じものが作れるわけではありません。ですが、「パチュリと柑橘系が出会うと、一気に香りに気品と高級感が出る」という性質は共通しています。このブレンドをいくつかのポプリに使ってみましたが、おうちで手軽に、驚くほど気品豊かな香りに仕上がりました。
植物どうしが起こす奇跡の香り

自作の本当の快感は、そんな植物たちの予期せぬ「化学反応」に出会えることです。
以前、塩と生の植物を漬け込んで熟成させる「モイストポプリ」を作ったときのこと。生のカモミールの花にネロリを使って調合したのですが、ネロリ単体では決して出せない、カモミールと反応し溶け合った、まさに「この世のものとは思えないほど美しい香り」に仕上がったのです。
関連記事:カモミールとネロリのモイストポプリ。癒やしのレシピも
ちなみにカモミールは、お庭やプランターで自分で簡単に育てることができるハーブ。自分で育てた植物が、極上の香りのピースになる。これこそが手作りの醍醐味です!

まとめ:既製品の消費から、香りの自給自足 へ

手軽に作れて数週間から1ヶ月ほど優しく香る「ドライポプリ」も素敵ですが、塩を使ってじっくり熟成させる「モイストポプリ」にパチュリやオリスルートのような「魔法の保留剤」をしっかり使えば、なんと数年単位で豊かな香りを保ってくれます。 香りが薄くなってきたら手持ちの精油を数滴足して(追香して)育てることもできるので、長い目で見れば、市販品を消費し続けるよりもずっと経済的で、何より贅沢です。
もちろん、その香り方は市販のルームフレグランスのような、空間全体への華やかな広がり方とは少し異なります。市販の強い香りは、時に私たちの鼻や心を疲れさせてしまうこともありますよね。
けれど、自然の素材で育てる香りは違います。けっして主張しすぎず静かにそこにあるのに、不思議と香りを捉える鼻を離さない、奥深い引力があるのです。だからこそ、その時々の自分の気持ちをそっと、でも確実に癒やし、リフレッシュさせてくれます。
お金を出せば、一瞬で「完成されたモノ」が手に入る時代。 でも、だからこそ、自分の手を動かし、植物たちの不思議な反応にワクワクしながら、時間をかけて香りが熟成していくのを待つ生活は、私たちの心に本当の豊かさを連れ戻してくれます。
アーティスト・作家|歴史や世界の深淵を読み解き、新しい生き方の景色へと翻訳することを私のライフワークとしています。|詳細のプロフィールはこちら